中堅中小企業の上場支援を行っている。
このコロナ禍においても、多額の費用と労力、時間を割いてでも、上場したいという企業が一定数あるようだ。
特に私が支援している東京プロマーケットへの上場では、上場できたとしても、すぐに多額の資金を一般投資家から集めることはできないにも拘らずだ。

そこを目指す社長はみな、目先の資金調達よりも、信用力や知名度の向上が目的である。
東京証券取引所に上場した、晴れて上場企業になった、ということは、お金に代えがたいステイタスなのかもしれない。

そこでまず最初にぶつかるのが、経理と財務の分離である。いわゆる『財経分離』。

中小企業は、名前の通り規模が小さいため、従業員数も少なく、本業ではない経理部門に多くの人を割いている企業は少ない。中小企業では、経理担当者が1名で、上場を目指しているところもあるのだ。そのような効率経営をしている社長は、経理と財務にあえて別々の人を割くことに対して、不快感をあらわにする。

中小企業では、一人二役、三役やって当たり前だし、その方が会社にとっても、経理担当者にとっても仕事の幅が広がる。
経営コンサルタントの私としても、いつも多能工化、マルチスキル化を推奨しており、「あなたは経理なので、財務を行ってはいけません。」と言わざるを得ないことに対して、多少の戸惑いや疑問を感じながら指導してきた。

しかし改めてよく考えてみると、経理と財務を完全に分けることは、企業経営、特に社長にとって有効だと思う。

ここで、経理とは何か、財務は経理と何が違うのか、をはっきりしないと、その理由も分からないだろう。

『財経分離』の考え方の中では、
財務: 出納(お金の出し入れ)、振込、借入など、資金の移動を伴う業務
経理: 会計伝票や証憑類の精査、会計システムへの入力、帳簿等の作成・保管など
を指す。

簿記上の取引は全て仕訳がなされ、それを基に、会計帳簿や決算書など、会社の財産の状態や損益の状況を把握することができる重要資料が作成されていく。
一方で、取引先への支払や、お客様からの売上代金の回収については、現金や預金などの入出金、金銭債権債務が移動する行為だ。
仮に経理担当者がこの財務も扱うことができるとすると、会社のお金を不正に引き出し、その証拠を隠蔽する伝票を起票して自ら会計システムに入力することができるため、他者の目を触れることなく、全て好き勝手に行えてしまうことにもつながる。

そこで、上場を目指す企業においては、不正未然防止の観点から、この最低限のルールである、経理と財務を完全に分けることを要求している。
しかし中小企業においては、ほとんど経理と財務は一緒の人が行っている。経理から独立した「財務担当」という人や組織を見たことはない。

私は中堅中小企業の経営コンサルティングを25年以上行ってきているが、多くの企業で従業員の不正による金銭問題を見てきた。
その多くは、経理と財務が分離されていたら内部牽制機能が働き、未然防止、抑止できていたのかもしれない。

そんなに仕事量が無いのに経理と財務を分けるのはムダだと社長はいう。また、従業員が会社からお金を盗んだらすぐにわかる、と豪語する社長もいるだろう。
でも、そういう社長に限って、簿記、経理、財務のことはよく分かっていない。
会社からお金を盗む従業員が、盗んだ金を費用計上するバカはいない。そんな分かりやすい経理処理をするのではなく、従業員が盗んだ金は、損益計算書には表れない。

かつて、二世の後継者向けに財務の研修を行った際、社長に気付かれずに従業員は会社からどのようにしてお金を盗むのか、講義したことがあった。
すると、ある受講者が手を上げて、そんなことを皆に教えていいのですか? と質問されたことを今でも覚えている。

私は、「いいんですよ。これから経営者になる皆さんが、どのように従業員が不正を働くか知らずに痛い目に合うのは不幸だから。ぼんくらの経営者では、従業員にいいようにやられてしまうので。」と。

私が見てきた従業員による不正行為は、5万、10万などというものではない。数百万円、数千万円というものが、何度もあるのだ。
よくもまあ、そんな大金を従業員に持っていかれて・・・
世の中には、マスコミや警察沙汰にならない不祥事は山のようにあるのだろう。

そのようなことを何度も見てきた私とすれば、経理と財務を分けることで、従業員の不正を未然防止できることは、この上ないことである。

『財経分離』は、社長を守る非常に有効な仕組みだ。
社長にとって、そして身近に犯罪者を生み出さないためにも、あらためて基本に忠実に従い、支援していこうと思った。

小林ビジネスコンサルティング株式会社
代表取締役経営コンサルタント 小林八尋


(一般社団法人東京プロマーケット上場協会 理事)